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こだわりの珈琲店を巡る

第一回
 浜松 トゥルネラパージュ

巨大スピーカーで浴びるJazz、そして自家焙煎の地下水コーヒー

音楽の街の、「アヴァンギャルド」のある喫茶店

音楽の都・浜松市。
この街の人達の音楽と向き合う意識の高さにカルチャーショックを受けた。

音楽の都・浜松市。ヤマハやカワイ、ローランドといった世界的な楽器メーカーが本社を置く楽器の街。
それを象徴するように、新幹線浜松駅の改札内コンコースには、グランドピアノやピアネッテなど小型鍵盤楽器が展示してある。通りすがりの乗降客がピアノを奏でる。JR浜松駅は、日本で唯一、グランドピアノが自由に弾けるStationだ。
この異文化に触れて私は「♪もしもピアノが弾けたなら」と呟く。
この街の人達の音楽と向き合う意識の高さにカルチャーショックを受けた。

「トゥルネラパージュ(Torunez La Page)」
傾聴エリアの特等席に座り、アヴァンギャルドと対峙する。

訪問先の珈琲・紅茶専門店「トゥルネラパージュ(Torunez La Page)」は、浜松駅南口から歩いて10分弱の距離。
店舗の外観を目の当たりすれば、誰もがその威容さに佇むことだろう。
しかしエントランスは普通の“喫茶店然”として敷居は高くない。ただ、店の奥底は異次元の音響空間に支配されている。
店主が「オーディオショーで出合って一目ぼれした」と云う威風堂々のスピーカーシステム“TRIO+6BASEHORN”が来店客を迎えている。世界最大規模を誇る美的フォルムと、心地よい音響を合わせ持つ、伝説のドイツ製スピーカー・アヴァンギャルド。
ホームページには『広大な開口部ホーン面積を持つローミッドレンジと、ミッドレンジ、ツイーターの3ホーンで構成したスピーカーTRIOに、ホーン型アクティブサブウーハーBASSHORN3ペア(6本)を組み合わせたシステム』とある。半地下の17席ある傾聴エリアの特等席に座り、アヴァンギャルドと対峙する。
ライブ盤の音源に「これは生演奏か」と錯覚するほどの再現性に感動した。超低音から超高音のダイナミックレンジを全身に浴びて心身は揺さぶられた。

現地買付の豆を自家焙煎し、天竜川の地下水で淹れる

ページをめくる、新たな一日のスタートを切る場所をお客様に提供したい

トゥルネラパージュ。この記憶し難い屋号は仏語の慣用句だ。「ページをめくる、新たな一日のスタートを切る場所をお客様に提供したい」。店主の矢野裕理さんは二人の幼児を育てるママだ。お店の特徴を聞くと「メインはこだわりの珈琲です」。

アヴァンギャルドではなかった。意外だった。

こだわりの言葉に反応しインタビュアーとして質問を二つ三つ。
人に話を聞くことは簡単そうだが、相手に通じるだけの気持ちの深さが聞き手にない限り、実りのある話は引き出せないものだ。

コーヒーは、各段階に及び創意と工夫を凝らした究極の逸品。
実に美味しかった。

こだわりを店主が説いた。それによると、珈琲豆は自ら産地に足を運び、直接農家と交渉して仕入れる。
アフリカや中米の一部を除き「主力のブラジルではミナス・ジェライス、ガテマラはアンティグア、ハワイコナの農園を定期的に訪問しています。直接取引はトレーサビリティを確保するためです」と骨太の理念を語る。
店主父親の伝手で紹介されたハワイコナのイレインズ農園は、ここ数年品評会で連続受賞を獲得した入賞豆を育てる優良な契約農家。また英語圏でないブラジルの農園探しでは、ブラジル人の伴侶と共に開拓した農家から専用豆を買い付けている。
入手した厳選豆は丁寧にハンドピックして、店舗2階の焙煎室で自家焙煎する。
必要量に応じて計画的に焙煎し鮮度管理を徹底している。焙煎機は井上製作所の小型4kg釜。
水は店舗の地下100mから汲み上げた地下水を使用している。浜松は天竜川の扇状地で地下水は豊富。地下水を一晩、約8時間かけて抽出した水出し珈琲は人気の季節メニューで数量を限定して提供している。
豆と焙煎と配合と抽出水。こだわりは各段階に及び創意と工夫を凝らした究極の逸品が仕上がる。手間と暇を惜しまない珈琲が旨くないはずはない。
実に美味しかった。

運命に導かれて、深遠なるJazzと珈琲の世界へ

多彩な経歴。自分を見詰め直すために、地元に戻り、自分探しの旅の過程で、Jazzやコーヒーと出会う。

開業は14年前の2005年5月。それまで焙煎修行など2年間の準備期間を要した。
矢野さんの経歴は多彩だ。
映画・映像技術を本格的に学ぶため米国の大学に進学、北のハリウッドと呼ばれるカナダ・バンクーバーの映画制作所に就職したが2003年に帰国。
その動機は「内面的なもの。米国に憧れて渡米したものの、アートの世界で日本人として自分らしさを表現する力が不足していることに気付いた。戻って自分を見詰め直したかった」。地元に戻り、アルトサクソフォンを習得するなど自分探しの旅を始める。
Jazzとの出逢いは「映画学生としてウディ・アレンの作品などを鑑賞するうちにBGMで流れていたので自然に親しみ入り込んでいった」。父親の友人からJazzレコード5000枚を譲り受け、また14~15年前にはアヴァンギャルドのブームが到来。
「時期的に同じタイミングで導かれたように開業に至った」と振り返る。
また焙煎はベーシストでもある師匠から指導を受けた。

Jazz愛好家にとってトゥルネラパージュは随喜のコンテンツが満載のオアシス

店内のスクリーンではバスター・キートンなどの無声映画が流れる。半地下の左側面には40枚のジャケットを陳列。右側の書棚には、往年のJazzファンには懐かしい「Swing Journal」のバックナンバーを約25年分所蔵、紙齢63年の歴史を閉じた2010年7月の納刊号が読める。他にも、米エスクァイア誌の呼びかけで57人のミュージシャンが一堂に会した「ビッグ・ピクチャー」(1958年撮影)のモノクロフォト、著名な『Jazzの木』のポスターも飾られている。Jazz愛好家にとってトゥルネラパージュは随喜のコンテンツが満載のオアシスである。

取材メモ

ブリジッド・フォンテーヌと店主の共鳴

今回の取材では、アヴァンギャルドの音質と音色を確かめたくて愛蔵CDを一枚持参した(因みにお店では雨降りの日に限って持ち込みのレコードやCDが試聴できる)。学生時代に繰り返し聴いていた、ブリジッド・フォンテーヌとArt Ensemble Of Chicagoの共演盤『ラジオのように(comme a la radio)』を試聴させて戴いた。ベースの低音と管楽器の再現性の高さに息を飲んだ。フォンテーヌは、フランスを代表する前衛的シャンソン歌手で小説家、詩人、女優、と多彩な才能を発揮した。マルチタレント性ではトゥルネラパージュ店主とシンクロしていると思いながら聴き入っていた。

トゥルネラパージュ(Tournez La Page)

ADDRESS:〒430-0928静岡県浜松市中区板屋町628 Y3ビル1F
TEL&Fax:053-455-7100
営業時間:水・木・日13:00〜19:00/金・土13:00〜21:00
定休日:毎週月曜日・火曜日(その他、不定休あり)
席数:半地下17席(傾聴エリア)を含めて約38席

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