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SCA認定トレーナー、
ダニー・パン氏に訊く

「美味しいコーヒー」とは?

コーヒーの美味しさって、どうやって決まるのだろう?そんな疑問を抱いたことはありませんか。豆の種類や量、湯の温度、抽出時間、水など、味や香りに影響する変数の組み合わせ、そしてどんなコーヒーを美味しいと感じるかは、人それぞれかもしれません。でも、できるだけ多くのお客さまに美味しいと感じていただけるコーヒーを提供するのは大切なこと。そこで役に立つのが、SCAで採用されている「コーヒー・ブリューイング・コントロールチャート」です。今号では、SCA認定トレーナーであるダニー・パン氏にお話を伺いました。

Danny Pang(ダニー・パン)
SCA認定トレーナー
主観的な味覚を通した体験と
定量化が可能なTDS*との両面から、

理想とするコーヒーの淹れ方を実現する

SCA認定インストラクターとして、ダニーさんはどのようなお仕事をされているのでしょうか?
私は、「抽出」「バリスタとしてのスキル」「香味評価」「焙煎」という4つの要素において、スペシャルティコーヒー協会の認定トレーナーの資格を持っています。ゴールドカップでは、「抽出」の中でさらに3つのレベル分けがされており、講座を通して教えたり認定をしたりするのが私の役目です。
また「カップ・オブ・エクセレンス・コンペティション」では、カッピング(コーヒーの鑑定)や抽出の審査委員長も務めています。さらに私は、マルコ・ビバレッジ・システムズのアジア太平洋地域の技術・営業部長でもあります。このように様々な立場で、ゴールドカップの実践的な要素を生かしています。仕事を進める上でゴールドカップの原理は必要不可欠であり、商用・家庭用に関わらず、どんなコーヒーや機器を使うシーンにおいても、ベストな淹れ方を実現するためのツールになると実感しています。

表の読み方

  1. 抽出に使用したコーヒー量、お湯を1L換算した値を算出し、その直線を探す。
  2. その直線と抽出したコーヒーの濃度(TDS)の交点を見つける。
  3. 交点から真下に進み、記載されているパーセントが使用したコーヒーの抽出率となる。
  • SCAのゴールドカップの基準は、コーヒーの抽出率が18〜22%のコーヒーとされている。赤の四角内に入れば適正な抽出がされているコーヒーとなる。
  • 一般的に18%以下のコーヒーを「Under extraction(抽出不足)」、22%以上のコーヒーを「Over extraction(過抽出)」と呼ぶ。
理想のコーヒーの淹れ方についてどうお考えですか?
主観的な味覚を通した体験と、定量化が可能な*TDSとの両面から、理想とするコーヒーの淹れ方を実現することは大変ですが、そこでこのチャートが役に立ちます。チャートから読み取れることはまず、コーヒーの抽出率は18〜22%が最適であるということです。この幅の中で、ヨーロッパでは比較的濃いめの抽出(一定量の水に対してのコーヒー量が多い)が好まれ、アメリカでは薄めの抽出(一定量の水に対してのコーヒー量が少ない)が好まれるようです。要するに、地域によって多少の好みの差はあっても、ほとんどの人は18〜22%の抽出率で淹れたコーヒーをおいしいと感じるということです。これは焙煎が浅めのものでも深めのものでも同じことが言えます。
* Total Dissolved Solids:全固形分または全蒸発残留物、つまり水に溶け込んでいるコーヒーの量

世界標準のコーヒーが
生まれた背景

1965年に発表された最初のチャートはどのようにして作られたかご存知ですか?
もともとは、アメリカのコーヒー・ブリューイング研究所の研究者らによって作成され、その後にヨーロッパ・コーヒー・ブリューイング・センターによって手が加えられました。研究や分析、結果のとりまとめを始めた人物として知られているのはアーネスト・アール・ロックハート博士です。当初は、何度もコーヒーを淹れてコーヒー液のサンプルを用意し、50度の環境で一晩かけてゆっくりと水分を飛ばし、すべての水分が蒸発した後にわずかに残ったコーヒーの残留物の重さを量るという大変な作業が行われていました。これが、一定のコーヒー液の中のコーヒーの*TDSの定義が生まれた経緯です。最初は、使用するコーヒーの重さを固定し、水の量を変えて実験した結果をチャートにしていたのですが、その後水の量を1リットルに固定して、コーヒーの重さを変えて表示する方式に改良されました。
日本の市場ではまだ、このチャートも、多様な抽出結果やこのような体系的な分析が存在すること自体もあまり知られていません。コーヒーの世界をより深く研究するために、このチャートの効果的な利用法を教えてください。
ゴールドカップチャートは、コーヒーの専門家にとっては分かりやすくできています。しかし、*TSDと濃さとの関係、抽出率とコーヒーの残渣府との関係、深さや浅さなど、重要な用語の専門的な理解が必要となります。自分自身、トレーナーとして長年の経験がありますが、専門的かつ物理的な解説抜きに消費者に抽出の細やかな調整の仕方を説明するには、このチャートは不向きだとするコーヒーの専門家は多いと思います。消費者はコーヒーの抽出について学ぶ気になれず、「おいしいコーヒーが飲みたいだけなのにどうしてそんなに複雑なの?」と結局諦めてしまうわけです。どんな素人にもわかりやすいように、チャートの意図や要点だけをより簡単に伝える方法を考える必要があります。

チャートを生かしながら
多様なコーヒーの楽しみ方を尊重したい

ヨーロッパとアメリカでは好まれる味の基準が異なるのはなぜですか?
2011年の2月から10月にかけて、このチャートが現代でもまだ適正かどうかを確かめるための研究と調査が行われました。調査が実施された都市は、アイルランドのダブリン、イタリアのミラノ、ドイツのケルン、オランダのマーストリヒトです。これらの都市で、消費者に5種類の抽出率で、同じ濃さに淹れたコーヒーを飲んでもらったところ、62%の人が18〜22%の抽出率で淹れたコーヒーを好み、38%の人がこの理想とされた抽出率からは外れたものを好むという結果になりました。
この好みの違いは、主にそれぞれの国の食文化の違いに起因するのではないかと私は考えています。一般的に、濃い味や香りのものを食べる習慣のある都市や国の人は、水に対してコーヒーの量が多めの濃いコーヒーを、薄味の食べ物が多い地域の人はコーヒーも薄めのものを好むようです。
酸味への耐性については、酸味のある食べ物が多いエリア、特に発酵食品を摂る文化圏の人は浅めの焙煎で抽出率も低めのコーヒーのほうが飲みやすいようです。逆に、酸味イコール腐敗や未熟と捉えがちな地域、特に熱帯など年中気温の高いところでは、抽出率の低いコーヒーは敬遠され、抽出率の高いコーヒーに砂糖を加えて苦味を抑えて飲む方法が好まれるようです。
この研究に対する個人的な見解としては、コーヒーの抽出率には最適な幅があるとはいえ、それよりも低い、または高い抽出率のコーヒーを好む人、薄めが好みの人もいれば濃いめが好きな人もいるということを尊重すべきだということです。チャートの座標軸に沿って書かれている説明に従って抽出を調整することもできます。こうすれば、文化や人によって多様なコーヒーの楽しみ方があるということを尊重できますし、尊重すべきだと思います。

世界的なコーヒーの基準があったとしても、
各国の食文化に合ったコーヒーも存在する

日本や日本以外のアジアの国々でもまたおいしいコーヒーの基準はその他の地域とは異なると思いますか?
アジア圏でももちろん食文化や食習慣によって基準は異なると思います。その地域の人が普段何を食べているかを観察してみてください。そうすれば、どんなコーヒーが好まれるかが大体わかります。
コーヒーを淹れる際のありがちな失敗は何でしょうか?
また、その解決策を教えてください。
挽き目の調節以外には、水の質がコーヒーに大きな影響を与えると思います。コーヒーは98〜99%が水なわけですから、コーヒーのおいしさを最大限に引き出すためには水質と水の硬度が大きな役割を果たします。しかし現時点では、水質検査のキットは専門家用のものしか出回っていません。コーヒーの機器メーカーが日本各地の水質を調べてチャート化し、それぞれの水にどのようなフィルタリングが適切かを示せるような仕組みがあれば良いと思います。これは、コーヒーの抽出に役立つだけでなく、ある場所では別の場所よりも特定の食べ物がおいしく感じられる理由がわかるきっかけになるかもしれません。
読者や日本市場に向けてメッセージをお願いします。
高品質なスペシャルティコーヒーに対する日本のお客様の理解が高まるにつれ、学びや新しい機器ヘの需要も高まっています。スペシャルティコーヒー協会での活動を通して、我々の40年にわたる経験と知識を世界中の消費者や業界の方々と分かち合うため、今後も努力していくつもりです。
―ありがとうございました。